2016年 09月 05日
昨日、銀座松屋で開催中の「星野道夫の旅」に行ってきました。
私たち夫婦の大切な友人の1人だった星野道夫さんが亡くなり早20年。
没後20年の特別展と銘打った写真展です。
開店からわずか30分でしたがたくさんのお客様でにぎわっていました。すごいなぁ、星野道夫はまだ人びとの心にこんなに残っているんだ.....
私たちは星野道夫の名がまだ世に知られる少し前に星野さんと出会いました。
なんといっても忘れられない思い出は、一緒にキャンプに行ったデナリ国立公園でのこと。
この日はあまり動物たちに遭遇せず、そろそろ帰ろうかと言っていたとき、偶然にも子熊を二匹つれたグリズリーに遭遇したのです。
「子熊を連れた母熊は警戒心が強いから静かに車から降りて」と星野さんに言われ私たちはドキドキしながらゆっくり車から降りました。
星野さんはカメラを取り出し被写体を優しくみつめ時折シャッターを切ります。
私も負けじと星野さんの横で生まれて初めて至近距離にいるグリズリーにレンズを向けました。
柵や檻があるわけでもないこのアラスカの大地に、人間と熊がお互いある一定の距離と秩序を保ちそれぞれが存在している「不思議」を感じざるを得ない瞬間でした。
「もう少しここで待ってみよう。もしかしたら母熊が授乳を始めるかもしれない」
星野さんのこの言葉に半信半疑ながら待つこと小一時間。
「あ!始まる」
母熊がごろんと仰向けに寝転がると無防備にさらけ出したお腹の上に子熊が二匹かけのぼり、おっぱいを飲み始めたのです。
母熊は両手で子熊を抱くようにしていつまでもお乳を飲ませていました。
私は目の前で繰り広げられる自然の営みに全身が震えるような興奮を覚え、言葉を失い、そして心奪われました。
私の人生で決して忘れることのない「風景」。
星野さんが私にくれた最高の時間でした。
「人の言葉でなく、いつか見た風景に励まされたり、勇気をもらうことがある。そんな風景を持っているかどうか。それは大きな違いだ。」
星野さんは常に、忙しく過ぎる都会の時間の向こうにもう一つの時間がゆっくり流れていることを残したエッセイの中でも教えてくれています。
一枚一枚丁寧に命と向き合ってシャッターを切った、もう増えることのない星野さんの写真をみながら、改めて「もう一つの時間」の重みを感じた写真展でした。
写真展は今日5日まで銀座松屋にて。
これはそのときデナリ国立公園でグリズリーを撮影する星野道夫。
撮影:中井貴恵!
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by nakai_otf
| 2016-09-05 08:36