森山京さんのこと
新年、10日から活動を開始した私たちですが、この会を結成するきっかけを作ってくださった児童文学家の森山京さんが7日に亡くなられました。11月末にご主人を送られて、つい先日「暖かくなったら大好きな鰻を食べに行こう」とお約束したばかり。まさに突然
のことでした。
私たちのこの「大人と子供のための読みきかせの会」は森山さんのきつねのこシリーズの一冊「つりばしゆらゆら」(あかね書房)に中井が出会ったことから結成されました。
自身の子育ての中で「絵本は子供を寝かしつけるための道具」としか思っていなかった中井にとってまさに目から鱗の思いをもたらしたのが森山さんのこの一冊でした。
つりばしの向こうにまだ見ぬきつねの女の子がいると知った主人公のこんすけは、ゆらゆら揺れる長くて細いつりばしを友達の反対を押し切って一人で渡っていくことを決心します。でもそれは想像以上に怖くて勇気のいることでした。毎日少しずつ歩みを進め、ようやくある日はしの真ん中までたどりついたこんすけ。あと少し頑張れば女の子に会える。いつのまにか読者はこんすけを後押しし、つりばしを一緒に渡っていきます。ところが物語には意外な結末が用意されていました。
半分まで渡ったところで、こんすけは友達に見つかり「あぶないからやめて」と声をかけられます。友達に心配をかけてすまないと思ったこんすけは、「またいつか遊ぼう」という言葉をつりばしの向こうのまだ見ぬ女の子に残し、橋を渡ることをふっつりとやめてしまうのです。
たいていの絵本に用意されているハッピーエンドとは程遠いこの結末に中井は胸を締め付けられました。「頑張ってやってもできないことはたくさんあった。途中で諦めなくてもいけないこともたくさんあった。そんなことを経験し自分は大人になった。おそらくいまこの物語を隣で聞いている自分の幼い子供たちもこんな思いを繰り返し大人になっていくのどろう」と。
不思議な思いがこみ上げ止まらなくなった涙......。
こんな素晴らしい童話がこの世にあるなら是非自分の声でみなさんにそれを伝えたい。子供だけでなく大人の皆さんにも。
こんな思いが「大人と子供のための読みきかせの会」へとつながっていったのです。
我々にご自身の作品の上演を快諾してくださった森山さんはまるで私設応援団のごとく、いつも私たちの活動を支えてくださいました。
公演にかけつけ子供たちの質問に丁寧に答えてくださったり、快くサイン会をひらいてくださったり。そして「今までたくさんのこんすけがいたけど中井さんのこんすけ、私好きですよ」と言ってくださいました。
会が結成されて今年で20年。
まだまだたくさんの時間を共有できると思っていたのに本当に残念でなりません。
森山さんの作品はまさに私たちにいただいた宝物。これからもたくさんの人たちに伝えていきます。
森山さんどうぞ安らかに。そしていつまでも私たちのそばにいて見守ってください。
写真は会を結成してまもなくの頃、雑誌のインタビューで対談をした森山さんと中井。
「恥ずかしいから中井さんのうしろに隠して。」とおっしゃって写した一枚。