麦秋

23日に蓼科高原映画祭で「麦秋」の初演を終えました。
「麦秋」は音語り「小津安二郎の映画を聞く」シリーズの第6弾、4年ぶりの新作です。
「晩春」「秋日和」「東京物語」「お早よう」「秋刀魚の味」と5作作り、これで終わりと思っていたのですが、
御年92才になられた山内静夫さん(かつての小津組プロデューサー)が昨年の円覚寺の公演の時に何を思ったか
「実はもう一本やりたいと思っていましてね・・・」と突然皆様の前で「麦秋」を手がけると発言されたのです。
「えーーー!」「きいてない!」「ほんと?」「これから?」様々な感嘆詞、疑問詞が私の脳裏を駆け巡ったのですが、
なんとなんとあれから一年で本当に本当にできてしまいました。

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「麦秋」は昭和26年の作品です。
小津映画の中では原節子さんが同じ「紀子」という名前の役を演じていることから「晩春」「麦秋」「東京物語」、この三つの作品を「紀子三部作」と
よんでいます。(紀子は名前が同じだけで3作品生い立ちは違う紀子です)
「麦秋」は主人公の紀子の結婚を機に、今まで一緒に暮らしていた家族がばらばらになっていく物語ですが、そこには現代に通じる老老介護、家族のありかた、そして
女性の生き方などが描かれています。
映画は映像があるのでその映像とともに台詞=言葉を楽しんでいただきますが、音語りは言葉で映画を聞いていただくものです。
映像は言葉を聞きながら皆さんの頭の中で自由に描いていただくのです。
原節子さんを知らない世代の方には紀子はまた違った女性として写るでしょう。
戦後のあの頃をよくご存じの方にはきっと言葉の端々に昔の情景を思い出していただけるでしょう。
あの頃の家族像と今のご自分の家族像を重ね合わせたり、今も昔も変わらぬ親の子に対する思いについ涙したり
それぞれの観客がそれぞれの「麦秋」という映画を作っていただくのです。
おかげさまで蓼科高原映画祭に来てくださった皆様にはできたてのほやほやの「麦秋」を聞いていただきました。
会場に足を運んでくださった皆様、初演を温かく見守っていただきありがとうございました。
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:山内静夫さんとエピソード対談も

ちなみに「麦秋」とは「秋の季語」ではありません。麦が「実る」時期は「初夏」で、「実りの秋」ということから麦の秋=初夏
の季語です。梅雨の前の空気の乾燥した実に良い季候の頃ですが、それは一年を通してとても短い季節。もしかしたら長い家族の歴史の
中でその一番良い季節の家族を描いているのかもしれないと思いました。

10月の円覚寺で続けて「麦秋」を上演いたします。
是非秋の北鎌倉へ・・・。



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:終演後、お手伝いをしてくれた地元の高校生と!


by nakai_otf | 2017-09-26 18:30
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